食道癌と自然体で向き合う [Living Naturally with Esophageal Cancer]

人生は不公平極まりないが、すべての命は例外なく尽きる。そんな当たり前のことでさえ、我がこととは無縁と生きてきた。生を受けてからすでに半世紀を超え、着実に死に向かっていることに意識を向けることもないまま、告げられた宣告。ここに綴った文章がどこかの誰かに役立てば幸いです。

検診

11月19日、木曜日。

食道の摘出手術を受けてちょうど半年。細胞の検査結果で問題なしと聞いてほぼ二ヶ月、ひさしぶりにK大病院へ。地下の駅から地上へ出ると辺りの景色は一変して秋風情の趣になっていた。樹々は赤く、黄色く、それらの葉が地面を敷き詰め、冬の到来が近いことを想わせる。

CTスキャン内視鏡、血液検査と終え、主治医不在のため、飛び入りで診察を受ける。腸ろうの穴から膿みが出ていた二ヶ月前以後、出血、さらに赤い肉が顔を出し、動くたびに呻き声が自然にでるほど腹部が痛む。ふんふんと頷きながら診てくれた医師から意外な答えが。

「ほとんどの人に比べたらましなほうです。消毒は不要というか、どちらかといえばしない方がいいでしょう。腹筋の穴ですから痛いのは当然、我慢です」

30日に主治医から今日の結果を知らされる。おそらくそのとき腸ろうも終わりにしてくれると推測しているので、それまでの辛抱。

主治医が数量を間違えて睡眠薬が切れていたので半月以上、睡眠不足が続いていた。市販のドリエルEXを試して昨夜はなんとか眠れていたが、六日に二千円を続けて払っていられない。処方箋をもらって病院の向かいの薬局でルネスタを購入(二週間八百円)。以前の病院前の薬局ではお茶が数種類だけだったが、ここはお茶のほか、コーヒー、紅茶、オレンジジュース、りんごジュースまであり、お得感あり。

朝から何も食べておらず、TVで紹介されていた卵とじうどんが有名な店が近いと知り、iPhoneで場所をチェックし、秋の散策路を行く。と、向こうに長蛇の列。もしやと想いつつ近づくと、案の定。食事時でもないのに三十人ほどが並んでいる。

迷うことなく素通りし駅へ向かう。途中も景色が素晴らしい。写真を撮りながら行くと、近代美術館の裏へ出た。ゴッホ展をここで見たのが美術館へ行った最後で、いまは何をやっているのかと表へ回ると、フェルメールレンブラントとある。

迷うことなく館内へ。平日にも関わらず結構な人ごみ。フェルメールレンブラントは各一点のみで両方とも巨匠の作品としては大したことなく、知らない同世代の作家たちの作品のほうに魅入った。

美術館を出て過去食事をした辺りへ向かうと新しいこぎれいなうどん屋があり、そこも卵とじうどんがあるので、そこに決める。天ぷらをサイドで注文。出汁に自信とある。慣れ親しんだ浪花のうどんとは全然違う。いい出汁を使っているのはわかるし、まずくはないが、変わっている。なんと塩と砂糖を使っていないとある。なるほど変わっているはずだ。

食後、突然、腹痛が来た。ひさしぶりの外食。朝から何も入れず、いきなり、しかも結構な量を食べてしまっていた。義母の誕生日が近いのでプレゼントを探しに行くつもりだったが、痛みが少しひいたところで店を出て帰途についた。