食道癌と自然体で向き合う [Living Naturally with Esophageal Cancer]

人生は不公平極まりないが、すべての命は例外なく尽きる。そんな当たり前のことでさえ、我がこととは無縁と生きてきた。生を受けてからすでに半世紀を超え、着実に死に向かっていることに意識を向けることもないまま、告げられた宣告。ここに綴った文章がどこかの誰かに役立てば幸いです。

Blogspot掲載4

予備入院(2018/06/02)

 

引き続き、三年前を振り返る。

 

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手術を選択しない食道癌患者を待っているのは、抗がん剤放射線である。


抗がん剤による治療とは、患部と対峙する放射線に反し、広範囲の効果を期待するもので、太い血管である中心静脈まで挿入したカテーテルを介して薬剤を投与するのが主流のようだ。

 

私の場合は、上腕下部から心臓右心房へカテーテルを通す手法を選択したが、内蔵のことなので何も感じないと思っていたら、結構な違和感を心臓界隈に感じる。

 

そもそも抗がん剤と聞くと、癌をやっつけてくれそうな感じがするが、実は癌細胞だけではなく、臓器や血液も相当なダメージを受ける。これが俗に言う副作用で、個人差により様々である。

 

入院した病院では、5FUとアクプラ(ネダブラチン)の2種類しか使わない。今日で5FUを投与して5日目になるが、当初はなんともなかったが、さすがに全身のだるさは大昔に肝臓をやられたときを思い起こさせる。それにいろんなところが痒い。ただ口内炎はまだない。明日は、威力ありのネダブラチンを投与予定で、吐き気止めの薬が二種類用意されている。

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歳を重ねると、現在進行形の一年は早く感じるのに、過去の3年前はやけに遠くて、数十年前と変わらない。6階だったか、小ぎれいな食堂から淀川流域が見下ろせて夕陽が綺麗だったこと、ワイフが好物を持ち込んでくれて景色を眺めながらふたりで食したことなどを断片的に想い起こすだけだ。

 

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第一弾の抗がん剤投与が終ると二日かけて腎臓を点滴で洗浄。一日12回の小便は人生最多記録(しかもいちいちが大量!)。

 

そして放射線治療。胸一面にマーカーがつけられ、ハリウッド映画の人体実験のシーンに使いそうなSFぽい部屋の真ん中にある寝台の上に仰向けになると、目の前に一メートル四方の円盤が見下ろしている。

 

「始めます」という声がしてジーッと静かな機械音。円盤の中心にある円のなかに私の食道癌の形状が現れるのがちょっとした見物だった。

 

最初は長いというが、ほんの15分ほど。最後に円体がぐるっと180度回転し、背中のほうにまわったのは、なかなかかっこよかった。とはいっても、早い話がこれは軽い放射能被曝である。ゆるい放射能を患部に何度も照射してダメージを与えるのが目的だが、患部に至るまでの組織や臓器にも影響を及ぼす。次の治療には陽子線を選択することにした。
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ブログにはこう書いたが、陽子線治療を選んだのは、入院前に決めていた。ワイフとふたりでネットを検索しまくり、たどり着いた結論だった。偶然、担当の放射線医が施設所長の後輩でふたつ返事で紹介してくれることになった。このときの入院はそのための予備治療で、いまでもこの選択は間違っていなかったと信じている。