食道癌と自然体で向き合う [Living Naturally with Esophageal Cancer]

人生は不公平極まりないが、すべての命は例外なく尽きる。そんな当たり前のことでさえ、我がこととは無縁と生きてきた。生を受けてからすでに半世紀を超え、着実に死に向かっていることに意識を向けることもないまま、告げられた宣告。ここに綴った文章がどこかの誰かに役立てば幸いです。

陽子線治療11回目

陽子線治療11回目。

治療室に最初に入ったときには、「ちびまる子ちゃん」など歌謡曲がかかっていたのだが、9回目のときに突然ジャズになり、昨日からクラシックが流れている。

いつものように数人(ふたりから六人)の技師に導かれて治療台にうつ伏せになって二十分ほど。マイクから「治療に入ります」、そしてしばらくすると「治療終りました」という声がするだけ。

唾を呑み込むのは厳禁で、6回目だったか、猛烈に咳が出そうになり、涙を流しながら堪えていると、「呼吸は普通にお願いします」と。要するに、うつ伏せになって治療に入る十分ほどの時間は患部の位置合わせに費やされているようだ。実質の照射は二分ほどなそうな。

今日、11回目の治療を終えてすぐに内視鏡検査が入った。通算、五度目になるが、何度やってもこれは苦しい。

検査後、医者に写真をみせられ、「肉眼的にはもう見えません」とうれしい言葉。見ると、ここに来る前に、二度の抗がん剤放射線で、喉ちんこほどになっていた癌は見事になくなっていた。

陽子線を選んで正解だった。

「顕微鏡レベルではまだわかりません」

残り四回の照射で消滅してもらおう。